「先輩や園長からの言動がつらい。でも、これってパワハラなの?それとも自分が弱いだけ?」
そう思いながら、毎日保育の現場に立っている方は少なくありません。
厚生労働省の調査(令和5年度)では、過去3年間にパワハラの相談があった企業が64.2%と最多で、相談を受けた企業の73.0%で実際の事案が確認されています。
医療・福祉・教育分野でも発生割合が高い傾向にあります。つらさを感じているのは、あなただけではありません。
この記事では、保育園でのパワハラについて、定義・具体的な事例・指導との違い・対処法・転職のポイントまで順番に解説します。
- 保育士のパワハラ被害の実態と法律上の定義・6つの類型について
- 「指導」との違いを見極めるポイントとセルフチェックリストについて
- 証拠の残し方・相談窓口・転職のコツなど具体的な対処法について
1. 保育園のパワハラ|データが示す深刻な被害実態

「自分だけが感じていること」と思いがちですが、データを見ると保育現場のパワハラは広く、深刻に起きている問題です。
まず実態を確認しましょう。
保育士の約5割がハラスメント被害を経験している
マイナビ「ほいくらし」が現役保育士に行った調査では、52.2%が「ハラスメントを受けたことがある」と回答しています。
「見たことがある」を合わせると69.1%に上ります。
加害者は「上司」が79.3%、「先輩」が42.3%。立場が上の人から受ける被害がほとんどを占めています。
職場の人間関係が離職理由の第1位を占め続けている
令和4年度の東京都保育士実態調査(東京都福祉局)では、保育士を辞めた理由として「職場の人間関係」が31.5%で第1位でした(過去保育士就業経験者・複数回答)。
給与の安さや仕事の多さを上回る、最大の離職要因です。
こども家庭庁の資料では、保育士の有効求人倍率は全職種平均を大幅に上回る約3.8倍。人手不足が続く一方で、退職理由の上位には人間関係が居座り続けています。
参考:令和4年度 東京都保育士実態調査結果(東京都福祉局):保育分野における人材確保の現状について(こども家庭庁)
2つの調査が重なって示しているのは、保育士を追い出している主な要因が給与や仕事量だけでなく、上司・先輩からのハラスメントであるという実態です。
現場の人手不足解消のためにも、ハラスメント問題への対処は欠かせない課題と言えます。
2. 保育園でパワハラを言い出せない理由|その背景を知っておこう
被害を受けていても「言い出せない」と感じるのは、あなたが弱いからではありません。
保育という仕事の性質や職場のしくみが、言い出しにくい状況をつくっています。
子どもへの責任感が「辞めにくい空気」を生む
「今クラスを離れたら、子どもたちに申し訳ない」「自分が我慢すれば保育は回る」。強い責任感が、被害を訴えることを難しくしています。
人手不足の職場では「相談したい」と言い出すだけで「迷惑をかける」というプレッシャーが生まれます。加害者側もそれを知っているため、被害が長引きやすい面があります。
閉鎖的な環境が孤立・自己否定を生む
少人数で密に過ごす保育室では、人間関係の逃げ場がほとんどありません。
「自分が弱いだけかも」「我慢すれば丸く収まる」という気持ちになりやすく、問題が問題だと気づきにくくなります。「言い出せない」のは職場のしくみのせいです。
その前提を持って、次のステップを確認してください。
3. 保育園のパワハラとは|法律が定める定義と3つの要件

自分の状況がパワハラに当たるかどうかを判断するには、法律上の定義を知ることが第一歩です。
感覚だけでなく、客観的な基準で照らし合わせてみましょう。
パワーハラスメントの法的定義
パワーハラスメントは、「パワハラ防止法」(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)によって定められています。
「職場のパワーハラスメント」は、以下の3つの条件をすべて満たすものとされています。
パワハラを構成する3つの条件
条件①|立場が上の人からの言動であること
上司・主任・先輩など、立場や経験値の差を利用した言動が対象です。
保育現場では「園長」「主任」「ベテラン保育士」からの言動が典型的な例です。
条件②|仕事の適正な範囲を超えていること
感情的な叱責や人格否定、不当な業務の押しつけなど、仕事の適正な範囲を超えた言動が該当します。
条件③|働く環境が著しく損なわれること
心身に苦痛を与え、働き続けることが難しくなる状態を指します。
職場に行くのが怖い、体調を崩した、眠れないといった状態も含まれます。
この3つがすべて揃ったとき、法的に「パワハラ」と判断される可能性があります。
参考:職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)
4. 保育園のパワハラに多い6つの類型と具体的な事例

厚生労働省はパワハラの行動を6つの類型に整理しています。
「これってパワハラ?」と感じたとき、自分の状況がどの類型に近いか照らし合わせてみてください。
①身体的な攻撃
殴る・蹴るなどの暴力行為です。
保育現場では「物を投げつけられた」「肩や腕を強くつかまれた」という事例もあります。こうした行為は、刑法上の問題にもなりえます。
②精神的な攻撃(言葉による暴力)
保育現場で最も多い類型です。
- 子どもや保護者の前で激しく怒鳴る
- 「あなたは保育士に向いていない」と人格を否定する
- ミスのたびに全員の前で吊るし上げる
- 「辞めてしまえ」「こんなこともできないのか」と繰り返す
指導の目的を超えた、感情的・人格を傷つける発言はパワハラに当たる可能性があります。
③人間関係からの切り離し(無視・孤立化)
- 特定の職員だけ挨拶を無視する
- 会議や情報共有の場から意図的に外す
- 休憩室での仲間外れや悪口
孤立させて精神的に追い詰める行為です。証拠が残りにくい分、被害が長引きやすい点に注意が必要です。
④過大な要求(業務の強要)
- 残業・持ち帰り仕事を断れない雰囲気で常態化させる
- 一人では対応しきれない量の行事準備を短期間で命じる
- 「他の先生はみんなやっている」と断れない状況をつくる
「みんなやっていること」でも、パワハラになる場合があります。
明らかに個人の能力や役割の範囲を超えた業務量には注意が必要です。
⑤過小な要求(役割に見合わない仕事だけを命じる)
- 資格があるのに清掃や荷物運びしか担当させない
- 保育から外して雑用だけを継続的に命じる
意図的に役割を与えないことで、自尊心を傷つけたり退職を促したりする行為です。
⑥個の侵害(プライベートへの過度な干渉)
- 交際相手や家族関係を執拗に聞く
- 休日の行動を詮索したり報告させたりする
- SNSの閲覧を強要する
仕事と無関係なプライベートへの干渉は、本人が嫌だと感じていれば問題になりえます。
5. 保育園のパワハラと「指導」の違いを見極める
「厳しい指導なのか、パワハラなのか、自分ではわからない」という声はよく聞かれます。
判断するための基準とセルフチェックをまとめました。
正当な指導とパワハラを分ける3つのポイント
| 確認ポイント | 正当な指導 | パワハラの可能性あり |
|---|---|---|
| 目的 | 業務改善・成長のため | 感情的・個人攻撃が目的 |
| 場所・状況 | 個別に、落ち着いた状況で | 子どもや他の職員の前で怒鳴る |
| 内容 | 具体的な改善策を伝える | 人格・存在を否定する言葉が含まれる |
「子どものため」「あなたのため」という言葉があっても、感情的・人格を傷つける言動は、指導の適正な範囲を超えています。
これはパワハラ?セルフチェックリスト
以下のうち、あてはまるものがあれば、パワハラに該当する可能性があります。
言動の内容
□ 子どもや保護者がいる前で怒鳴られる
□ 「向いていない」「辞めてしまえ」など人格を否定する言葉を言われる
□ 他のスタッフと比較して繰り返し否定される
□ 改善策を示さず、感情的に叱り続けられる
職場環境
□ 特定の職員だけ挨拶や情報共有から外される
□ 自分だけ業務量が明らかに多い、または少ない
□ 断れない雰囲気で持ち帰り仕事や残業が続く
心身のサイン
□ 職場に行くことが怖くなっている
□ 食欲が落ちた、眠れない日が続く
□ 休日も職場や上司のことが頭から離れない
3つ以上あてはまる場合は、一人で抱え込まずに専門窓口への相談を検討してください。
6. 保育園のパワハラは子どもの育ちにも影響する

パワハラの問題は、被害を受けた保育士だけの問題ではありません。子どもの育ちにも、確実に影響を与えます。
追い詰められた状態で保育を行う保育士は、子どもへの対応や安全への注意が難しくなります。
また「厳しく管理しろ」という威圧的な文化が職場に根づくと、保育士が子どもへも威圧的になるという悪循環が生まれます。
パワハラをなくすことは、あなた自身を守ることであり、子どもたちを守ることでもあります。
「自分のために動くのは申し訳ない」と感じている方も、ぜひこの視点を持ってみてください。
7. 保育園でパワハラを受けたときの対処法と相談窓口
「つらい状況」と認識できたら、次は具体的な行動に移りましょう。
段階的に動くことで、焦らず対応できます。
①信頼できる人に話す
まず、信頼できる同僚・先輩や、家族・友人に状況を話してみましょう。
一人で抱え込まないことが、心の安定につながります。
園内の場合は「話が上司に伝わる」リスクもあるため、相手は慎重に選んでください。
②証拠を記録・保全する
将来の相談や手続きに備え、以下の方法で証拠を残しておきましょう。
日時・場所・発言内容の記録(5W1H)
「いつ・どこで・誰が・誰に・何を言ったか・どんな状況だったか」を、できるだけその日のうちにメモします。
手帳やスマートフォンのメモアプリが便利です。
録音データ
スマートフォンのボイスレコーダーで録音しておく方法もあります。
会話の当事者であれば、相手の同意なしに録音すること自体は違法ではありませんが、使い方によっては問題になることもあるため、専門機関に相談してから活用することをおすすめします。
心療内科・メンタルクリニックの診断書
心身に不調が出ている場合は、早めに受診しましょう。
診断書は、パワハラによる健康被害を客観的に示す重要な証拠になります。
③外部の公的相談窓口を活用する
園内での解決が難しい場合や、相談できる人がいない場合は、公的機関への相談が有効です。
いずれも秘密厳守・無料で利用できます。
あかるい職場応援団(厚生労働省)

パワハラの定義・判例・相談窓口の検索まで対応した厚生労働省の総合サイトです。
総合労働相談コーナー(都道府県労働局)

全国の労働局・ハローワーク内に設置されており、専門相談員が無料で対応します。
労働条件相談ほっとライン

電話で匿名相談ができる窓口です(0120-811-610)。平日17時〜22時、土日祝10時〜17時に受け付けています。
参考:労働条件相談ほっとライン
こころの耳(厚生労働省)

メンタルヘルスの不調について、電話・SNS・メールで無料相談が可能です。
参考:こころの耳(厚生労働省)
法テラス(日本司法支援センター)

慰謝料請求や訴訟など、法的な手続きを検討する場合に活用できます。
弁護士費用の立替制度があり、費用の負担を抑えて相談できます。
④心身の限界を感じたら休職も検討する
心身ともに限界を感じているなら、まず休むことを最優先にしてください。
医師から「職場のストレスが原因」と判断された場合、傷病手当金を受け取れる場合があります。
- 支給額の目安:標準報酬日額の3分の2
- 支給期間:最長1年6ヶ月(通算)
休職は逃げではありません。自分を守る権利として活用してください。
8. 保育園のパワハラで転職・退職を考えるときのポイント
「今の園を離れたい」と思ったとき、後悔しないために押さえておきたいポイントをまとめました。
退職を伝えるときの注意点
退職理由は「一身上の都合」でOK
退職の申し出は、法律上は2週間前までに伝えれば成立します。
保育現場では引き継ぎを考慮して1〜2ヶ月前が一般的ですが、体調が深刻な場合は無理に続ける必要はありません。
退職理由を詳しく伝える義務はないため、「一身上の都合」で問題ありません。
転職面接での伝え方の工夫
転職先の面接で退職理由を聞かれる場合は、ポジティブな表現に置き換えましょう。
- 「パワハラがつらかった」→「より風通しよく連携できる環境を求めて」
- 「園長と合わなかった」→「保育方針が自分の目指す方向と合う職場に移りたかった」
パワハラのない保育園を見極めるチェックポイント
園見学・面接で確認すること
- 職員同士が挨拶をしているか、表情はどうか
- 主任・先輩保育士と話せる機会があるか
- 職員の平均在職年数や離職率を聞いてみる
- ICT化や行事の見直しなど、負担軽減への取り組みが語られているか
求人票から読み取れること
- 求人が常に掲載されている園は離職率が高い可能性がある
- 「アットホームな職場」という表現のみで、労働条件の具体的な記載がない場合は要注意
- 残業時間・有給取得率など、数値で示された情報があるかどうか
保育士専門の転職エージェントを活用する
保育士専門の転職エージェントは、求人票には載らない職場の雰囲気や離職の本音を知っていることが多く、パワハラのある職場を避けるための情報源として頼りになります。
無料で使えるため、まず相談してみることをおすすめします。
よくある質問|保育園でのパワハラについて

-
パートや非常勤でもパワハラを申告できますか?
-
はい、できます。
パワハラ防止法はパートタイム・派遣・非常勤を含む、すべての働く人が対象です。
雇用形態に関わらず、相談窓口への申告や法的手続きを行う権利があります。
-
証拠がなくても相談できますか?
-
相談自体は証拠がなくても可能です。
公的な相談窓口では、証拠の有無に関わらず状況を聞いてもらえます。
ただし、今後の手続きに備えて、相談と並行してメモや録音などの記録を始めておくことをおすすめします。
-
相談したら職場にバレて、報復されませんか?
-
公的機関への相談は秘密厳守が原則で、職場に無断で知らせることはありません。
また、相談したことを理由に不利益な扱いをすることは、法律で禁止されています。
万が一、相談後に報復があった場合は、その行為自体が新たな違反として申告の対象になります。詳細は各相談窓口にご確認ください。
-
退職後でも相談・請求できますか?
-
はい、できます。
退職後でも、在職中に受けたパワハラを理由とした慰謝料請求は、損害と加害者を知った日から原則3年以内であれば可能です。
退職したからといって、あきらめる必要はありません。法テラスや弁護士への相談を検討してみてください。
具体的な期限は事案によって異なるため、専門家への確認を推奨します。
まとめ|保育園でのパワハラは一人で抱え込まないでください

保育園でのパワハラは、あなたの能力や心の強さとは関係ありません。
職場の力関係や閉鎖的な環境が生み出す、構造的な問題です。法律上の3条件と6類型を知ることで、自分に起きていることを客観的に整理できます。
被害を感じたらメモ・録音・診断書で証拠を残し、公的相談窓口や転職エージェントなど外部のサポートを積極的に活用してください。
心身が限界を感じているなら休職も正当な権利です。転職を選ぶ際は情報をしっかり集め、同じ環境を繰り返さない選択をしましょう。