「こんなに忙しいのに、なぜ給料が上がらないのだろう」——そう感じている保育士は少なくありません。
厚生労働省の調査では、保育士の平均年収は全産業平均を50万円以上下回っています。
この記事では、給料が低い構造的な理由を制度・現場・歴史の3つの視点から整理し、処遇改善の最新動向と給料アップの具体策までわかりやすく解説します。
- 保育士の給料が低い根本的な理由(公定価格・配置基準・歴史的背景)について
- 他産業との年収差や地域・雇用形態による給与格差の実態について
- 処遇改善制度の仕組みと、給料を実際に上げるための具体的な方法について
1. 保育士の給料が低い理由①:「公定価格」が収入の上限を決めている

保育士の給料が上がりにくい最大の原因は、認可保育園の収入構造にあります。
一般企業と異なり、保育園は自分たちでサービスの価格を決めることができません。その仕組みの中心が「公定価格」です。
公定価格とは何か
認可保育園の主な収入は、国や自治体が定めた補助金(公定価格)です。
子どもの年齢や人数に応じて金額が機械的に決まるため、どれだけ丁寧な保育を実践しても受け取れる上限は変わりません。
一般企業のように「頑張った分だけ売上が増える」仕組みが使えないため、園の収入も職員の給料も大きく上げることが難しい構造になっています。
保育園の人件費比率と経営の実態
こども家庭庁の調査によると、私立保育所の人件費比率は収入の約73.3%を占めています。
収入のほとんどが人件費に充てられており、経営に余裕がほとんどない状態です。
収支差率(いわゆる利益率)も3.2%程度にとどまっており、一般企業と比べて薄利な経営実態が浮き彫りになっています。
※出典:こども家庭庁「令和6年度 幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」
2. 保育士の給料が低い理由②:配置基準が「人件費の希釈」を生む

公定価格の問題に加えて、現場レベルでも給料が下がる構造があります。国が定める配置基準と、それに伴う「人件費の希釈」という問題です。
国が定める「最低配置基準」とは
保育士の配置数は、子どもの年齢ごとに国が最低基準を定めています。
| 子どもの年齢 | 保育士1人あたりの担当人数(最低基準) |
|---|---|
| 0歳児 | 子ども3人につき保育士1人 |
| 1〜2歳児 | 子ども6人につき保育士1人 |
| 3歳児 | 子ども15人につき保育士1人 |
| 4〜5歳児 | 子ども30人につき保育士1人 |
この基準は、あくまで「最低限の安全を保つライン」です。
実際には、アレルギー対応、ケガの対応、行事準備、書類作成など多様な業務が重なるため、この人数では現場が回らないことが多くあります。
なぜ追加配置が給料を下げるのか
多くの園では安全のために最低基準より多く保育士を配置しています。
しかし補助金(公定価格)は「最低基準の人数」をもとに計算されるため、追加で雇った保育士の人件費は、もともと少ない予算の中からやりくりするしかありません。
「数人分の人件費予算を、より多くのスタッフで分け合う」状態になり、1人あたりの給料が低くなります。
3. 保育士の給料が低い理由③:「見えない労働」が実質的な時給を下げている

給料の低さをより強く実感させるのが、勤務時間外にまで及ぶ「見えない労働」です。
日中は保育に100%のエネルギーが必要
子どもの安全を守るためには、日中は常に子どもから目を離せません。そのため、本来業務時間内に行うべき以下の仕事が、勤務後や自宅に押し出されてしまいます。
サービス残業・持ち帰り仕事の実態
独立行政法人福祉医療機構の調査によると、正規職員の退職者がいた施設は65.3%にのぼり、退職の最大原因として「保育業務の責任や負担の大きさ(62.8%)」が挙げられています。
持ち帰り仕事や残業代が支払われないサービス残業が日常化しており、実質的な時給に換算すると見かけ上の給与より大幅に低くなるケースも珍しくありません。
※出典:独立行政法人福祉医療機構「2024年度 保育所・認定こども園の人材確保に関する調査」
4. 保育士の給料が低い理由④:「育児は家庭の仕事」という歴史的な軽視

保育士の低賃金は、制度の問題だけではありません。日本社会に長く根付いてきた「保育観」が、賃金の出発点そのものを低く設定してきた歴史があります。
「子育ては無償の家庭労働」という考え方の影響
日本では長らく、「乳幼児の世話は母親や祖母が家庭内で無償で行うもの」という考え方が根強くありました。
保育という仕事が「家庭の延長」として捉えられ、「特別な専門知識が必要な職業」として社会的に認識されてこなかった歴史があります。
「ただ子どもと遊んでいるだけでしょ」という誤解は今もゼロではなく、こうした軽視が賃金の出発点を低く固定してきました。
女性・非正規比率の高さが平均を押し下げる
厚生労働省の調査によると、保育士の女性比率は9割以上にのぼります。また、パートタイムなどの非正規雇用が約3割を占めます。
女性が多い職種では出産・育児によるキャリアの中断が生じやすく、勤続年数が積み上がりにくい傾向があります。これが業界全体の平均給与を押し下げる要因のひとつになっています。
5. 保育士の給料の実態:他産業・雇用形態・地域で年収はどう変わるか

給料が低い「構造的な理由」を踏まえたうえで、実際の数字を確認しましょう。働く場所や雇用形態によって、年収には大きな差があります。
全産業平均との比較
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」をもとにした比較では、保育士の平均年収は全産業平均を約54万円下回っています。
また、女性保育士の平均年収は、全女性労働者の平均さえも下回るというデータもあります。
| 区分 | 平均年収(参考値) |
|---|---|
| 全産業平均(男女計) | 約460万円 |
| 保育士平均 | 約406万円 |
| 差額 | 約54万円 |
都道府県・経験年数による格差
保育士の給料は、働く地域によっても大きく異なります。東京都の平均月収が44万円台に達する一方、一部の地方では30万円を下回る地域もあり、地域差だけで年収が100万円以上変わることもあります。
また、勤続年数が4〜5年でベースアップが頭打ちになる傾向があり、長く働いても給料が大きく増えにくい構造も問題として指摘されています。
公立と私立の差
公立保育士(地方公務員)は地方公務員の給与体系が適用されるため、ボーナスや退職金も含めた長期的な処遇が安定している傾向があります。
一方、私立は運営法人によって差が大きく、同じ「保育士」でも待遇に大きな開きが生じます。
6. 保育士の給料は上がっている?処遇改善の最新動向(2026年)

保育士不足の深刻化を受けて、国は処遇改善に向けた取り組みを続けています。制度の中身と現状の課題を整理します。
処遇改善等加算の仕組み
国は「処遇改善等加算」という制度を設け、保育士の給与を底上げするための補助金を保育施設に交付しています。
キャリアアップ研修の受講や役職の取得に応じて、月額最大4万円程度の手当上乗せが可能です。
有効求人倍率から見る保育士不足の深刻さ
独立行政法人福祉医療機構の調査では、保育士の有効求人倍率は2.58倍(全産業平均1.18倍)と深刻な人手不足が続いています。
こども家庭庁は引き続き公定価格の改定を行っており、2026年以降も段階的な処遇改善が見込まれています。
※出典:独立行政法人福祉医療機構「2024年度 保育所・認定こども園の人材確保に関する調査」
7. 処遇改善手当は本当に届いているか?給料が高い園の見分け方

「処遇改善の補助金が出ているはずなのに、自分の手元には届いていない」——そう感じている保育士は少なくありません。
補助金は園を通じて支給される仕組みのため、現場へ届くかどうかは園の配分方針次第です。
補助金が「届かない」ことが起きる理由
こども家庭庁の調査によると、処遇改善の補助金を常勤職員へ分配している施設は約88.3%にのぼりますが、支給額や対象者の範囲は園ごとに異なります。
同じ制度のもとでも、「どの園で働くか」によって受け取れる金額に大きな差が生じます。
求人票・面接で確認したいポイント
転職・就職の際は、以下の点を事前に確認することで、補助金が適切に還元されている園かどうかを見分けやすくなります。
処遇改善手当の支給実績と金額
「手当あり」の記載だけでなく、実際の支給額を確認しましょう。同じ「あり」でも、数千円から数万円まで園によって大きく異なります。
人件費比率
収入の70%以上を人件費に充てている園は還元率が高い傾向があります。面接時に確認するか、法人の財務情報が公開されている場合は参照しましょう。
運営法人の種別
社会福祉法人は収益の分配に制約があるため、人件費への還元率が高いケースが多い傾向があります。
キャリアアップ研修の受講支援
研修費用の負担や、勤務時間内での受講を認めているかどうかも確認ポイントです。支援が手厚い園ほど、制度を正しく活用している可能性が高いといえます。
※出典:こども家庭庁「保育士等の3%程度(月額9千円)の処遇改善の調査結果」
8. 保育士が給料を上げるために取れる方法

構造的な問題がある中でも、個人として給料を上げるための手段はあります。現状の職場でできることから、転職を視野に入れた選択肢まで順に紹介します。
キャリアアップ研修を受講して手当を取得する
国が定める「キャリアアップ研修」を受講し、「副主任保育士」や「専門リーダー」の役職を取得すると、処遇改善等加算(月額最大4万円)の対象になります。
研修は自治体や保育団体が開催しており、在職中でも受講可能です。まだ取得していない場合は、最も確実な給与アップの手段のひとつです。
公立保育士(地方公務員)を目指す
自治体が運営する公立保育所の採用試験に合格すると、地方公務員として安定した給与・ボーナス・退職金が保障されます。
私立と比べて大幅に待遇が改善するケースが多く、長期的なキャリアを考える上での有力な選択肢です。
給与水準の高い地域・法人へ転職する
都道府県間の給料差は大きく、支援制度が手厚い自治体では住宅手当などの補助が充実しているケースもあります。
前章のチェックポイントを参考に、補助金が適切に還元されている法人・園を選ぶことが大切です。
追加資格の取得で活躍の幅を広げる
幼稚園教諭の資格を取得することで、認定こども園など幅広い施設で働けるようになり、給与水準の高い職場への転職がしやすくなります。
また、特別支援やリトミックなどの専門スキルも、処遇改善の対象となることがあります。
9. まとめ:保育士の給料が低い理由は「仕組みの問題」だった

保育士の給料が低い理由は、個人の努力不足ではなく、公定価格による収入の上限・配置基準がもたらす人件費の希釈・見えないサービス残業・長年の社会的軽視という複数の構造的問題が重なった結果です。
一方で処遇改善制度の拡充や公定価格の改定など状況は少しずつ変わっており、「どの園で・どの制度を使って働くか」の選択が給料に直結する時代になっています。