乳児院は、家庭で暮らすことが難しい赤ちゃんを24時間体制で育てる児童福祉施設です。
保育園とは目的も働き方も異なり、保育士の専門性が強く求められる職場でもあります。
この記事では、乳児院の役割や入所理由、働く職種、仕事内容、資格や給与面の考え方まで、公的データをもとに整理します。
- 乳児院の役割・対象年齢・入所期間と、保育園や児童養護施設との違いについて
- 入所理由や子どもの背景を、こども家庭庁の最新調査データについて
- 乳児院で働く保育士の仕事内容・1日の流れ・資格・給与面の確認ポイントについて
1. 乳児院とは?児童福祉法にもとづく児童福祉施設

乳児院とは、保護者の養育を受けられない乳幼児を預かり、親に代わって育てる児童福祉施設です。児童福祉法第37条にその目的が定められています。
第三十七条
乳児院は、乳児(保健上、安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要のある場合には、幼児を含む。)を入院させて、これを養育し、あわせて退院した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設とする。
児童養護施設や里親と同じく、乳児院は社会的養護を担う場のひとつです。子どもの生活の場であると同時に、保護者を支え、家庭に戻すための支援を行う場でもあります。
乳児院の対象年齢
対象は原則1歳未満の乳児ですが、必要がある場合は幼児も入所できます。実際には就学前の子どもが生活しているケースも多く見られます。
こども家庭庁「令和4年度児童養護施設入所児童等調査」(令和5年2月1日現在)によると、乳児院に入所している子どもの平均年齢は1.6歳、入所時の平均年齢は0.4歳です。
入所時の年齢は0歳が71.9%と最も多く、赤ちゃんのうちに保護されるケースが大半を占めます。
乳児院の入所期間
同調査での平均在所期間は1.4年です。「1年未満」が44.6%、「1年以上2年未満」が30.5%で、約4分の3が2年未満で退所しています。
一方で、同じ調査で子どもの「今後の見通し」を見ると、最も多いのは「現在の乳児院で養育」の36.2%です。
次いで「保護者のもとへ復帰」が22.6%、「里親・ファミリーホーム委託」が16.1%、「児童養護施設へ移行予定」が11.0%となっています。
この2つのデータを重ね合わせると、乳児院の姿が立体的に見えてきます。
在所期間の短さだけを見れば「次の生活の場が決まるまでの中継地点」ですが、実際には短期間で次の場へ移る子どもと、当面は乳児院で育ちを支える子どもが同じ場に共存しています。
保育士は、引き継ぐための養育と、続けていく養育を並行して担うことになります。
乳児院の施設数と入所児童数

出典:こども家庭庁「社会的養護の施設等について」(令和6年3月末/福祉行政報告例)
児童養護施設の607か所と比べると数は少なく、都道府県内に数か所というエリアも珍しくありません。
乳児院の今後の方向性
国は里親委託や家庭復帰を進めており、乳児院の入所児童数は定員に対して少なめに推移しています。ただし施設がなくなるわけではありません。
こども家庭庁の資料では、乳児院は児童相談所から一時保護委託を受けて実質的に一時保護機能を担うこと、地域の育児相談やショートステイなどの子育て支援機能を持つことが示されています。
養育の場としてだけでなく、地域の拠点としての機能が求められています。
2. 乳児院と保育園・児童養護施設の違い

乳児院・保育園・児童養護施設は、いずれも子どもを預かる施設ですが、目的も利用のしかたも異なります。
混同されやすい3つの施設について、「通所か入所か」「対象年齢」という2つの軸で整理しておきましょう。乳児院で働くことを考えるうえでも、この違いは押さえておきたいポイントです。
保育園との違いは「通所」か「入所」か
保育園は日中の保育が必要な子どもを預かる通所の施設で、夕方には家庭に帰ります。
一方、乳児院は子どもが生活する入所の施設です。食事や入浴、就寝、通院まで、暮らしのすべてを職員が支えます。
児童養護施設との違いは「対象年齢」
児童養護施設は原則として乳児を除く18歳未満が対象です。
乳児院を退所した子どもが、年齢や状況に応じて児童養護施設や里親家庭へ移っていくケースもあります。
3施設の違いを一覧で確認

出典:厚生労働省「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」、こども家庭庁「社会的養護の施設等について」
3. 乳児院に入所する子どもの背景と入所理由

「乳児院=親のいない子どもが暮らす場所」と思われがちですが、実際には保護者がいる子どもがほとんどです。
前掲の調査では、入所時に両親または父母のどちらかがいる子どもは99.1%にのぼります。
最も多い入所理由は「母の精神疾患等」

産後の心身の不調や精神疾患、経済的な行き詰まりなど、保護者自身が支援を必要としている状況が背景にあります。乳児院は保護者を責める場所ではなく、親子ともに支える場所です。
入所児の約半数に虐待の経験がある
「虐待経験あり」は50.5%で、前回調査の40.9%から増加しています。種類ではネグレクトが67.4%と最多です。
言葉で気持ちを伝えられない年齢だからこそ、こうした経験が睡眠や食事、情緒の不安定さとして表れることがあります。
医療的なケアが必要な子どもも多い
同調査で「罹患傾向あり」とされた子どもは54.3%で、児童養護施設の18.8%、里親の14.4%と比べて突出して高い水準です。
身体虚弱などを含む「心身の状況に該当あり」は27.0%(うち身体虚弱10.9%)となっています。入所経路の42.6%が医療機関からであり、乳児院は健康管理と医療的ケアの機能もあわせ持っています。
4. 乳児院が担う4つの役割

乳児院の仕事は、子どもを預かって育てることだけではありません。
児童福祉法第37条は、乳幼児の養育に加えて「退院した者について相談その他の援助を行うこと」も施設の目的として定めています。
実際の現場では、日々の養育、保護者への支援、里親への引き継ぎ、地域の子育て支援という4つの役割が並行して動いています。それぞれ順に見ていきましょう。
役割1:24時間365日の養育と保護
授乳、離乳食、おむつ替え、沐浴、遊び、睡眠、検温や通院まで、生活のすべてを支えます。
特定の職員が同じ子どもを継続して担当する「担当制」を取り入れる施設が多く、特定の大人との愛着(アタッチメント)を育てることが養育の中心に置かれています。
役割2:保護者への支援と家庭復帰の調整
面会や外出、一時帰宅の機会をつくり、育児の方法を一緒に確認しながら、家庭に戻れる状態を整えます。
データを見ると、乳児院は社会的養護の施設のなかで最も家庭とのつながりが濃い場だとわかります。
入所時に保護者がいる子どもは99.1%、家族との面会がある子どもは59.5%で施設種別のなかで最も高く、一時帰宅がある場合の頻度も「月1回以上」が88.8%と突出しています。
つまり乳児院の保育士の仕事は、子どもを預かることではなく、親子関係の再構築を支えることに直結しています。
役割3:里親支援と退所後のフォロー
里親家庭に子どもを託す際は、生活リズムや好み、健康面の情報を丁寧に引き継ぎます。
里親家庭に来た子どもの29.8%が「乳児院から」であり、乳児院は里親制度を支える存在でもあります。退所後の相談に応じることも、児童福祉法上の業務に含まれます。
役割4:一時保護の受け皿と地域の子育て支援
児童相談所の一時保護所は乳児に対応できないことが多いため、乳児については乳児院が一時保護委託を受け、アセスメントを含め実質的に一時保護機能を担っています。
あわせて、地域の育児相談やショートステイも行っています。
5. 乳児院で働く職種と職員配置基準
乳児院は保育士だけで運営される施設ではなく、複数の専門職がチームを組んで子どもを育てます。
省令で配置が定められている職種

出典:厚生労働省「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」第21条
このほか、里親委託の推進と委託後の支援を担う里親支援専門相談員を置いている施設もあります。ただしこの職種は上記の省令上の必置職員には含まれず、配置の有無は施設によって異なります。
求人を見る際は、どの専門職がどのように配置されているかを確認しておきたいところです。
乳児院の職員配置基準
同基準では、看護師の数が次のように定められています。
- 乳児および満2歳未満の幼児:おおむね1.6人につき1人以上
- 満2歳以上満3歳未満の幼児:おおむね2人につき1人以上
- 満3歳以上の幼児:おおむね4人につき1人以上
この看護師は保育士または児童指導員に代えることができるため、乳児院で養育を直接担う職員には保育士が多く含まれます。
0・1歳児をおおむね1.6人に1人という配置は、認可保育所の0歳児(おおむね3人に1人)より手厚い水準です。
ただし、この手厚さは「少人数でゆったり保育するため」ではありません。
入所経路の42.6%が医療機関からで、罹患傾向ありが54.3%という実態があり、省令が小児科の診療経験を持つ医師(または嘱託医)と看護師を必置としていることと表裏一体です。
乳児院の保育士に求められるのは、保育の技術に加えて健康観察の精度だといえます。
6. 乳児院で働く保育士の仕事内容と1日の流れ
乳児院の保育士は、授乳やおむつ替えといった日々のケアから、健康観察、記録、保護者や里親への引き継ぎまでを担います。2
4時間の生活を複数の職員でつなぐ職場のため、保育園とは仕事の組み立て方も1日の流れも変わってきます。ここでは主な仕事内容と、早番・日勤から夜勤までのスケジュール例を見ていきましょう。
乳児院の保育士の主な仕事内容
仕事内容例
- 授乳・調乳、離乳食や食事の介助
- おむつ替え、沐浴・入浴、着替え
- 遊びや散歩などの発達支援
- 検温・健康観察、通院の付き添い、服薬管理の補助
- 睡眠中の呼吸や姿勢の確認(乳幼児突然死症候群の予防)
- 記録の作成と職員間の申し送り
- 面会・一時帰宅時の保護者対応、里親への引き継ぎ
保育園との大きな違いは、暮らしそのものを支える点と、記録・申し送りの重みが増す点です。
24時間の生活を複数の職員でつなぐため、体調や機嫌の小さな変化を正確に伝えることが欠かせません。
乳児院の1日のスケジュール例
乳児院は交代制勤務です。施設によって異なりますが、早番・日勤・遅番・夜勤の組み合わせで24時間を回す形が一般的です。
早番・日勤の流れ

遅番・夜勤の流れ

夜間も授乳や巡回があり、静かに過ごせる時間ばかりではありません。
一方で、夜泣きに寄り添い、朝の目覚めに立ち会えるのは、生活を丸ごと預かる施設ならではの時間です。
7. 乳児院で働くために必要な資格と就職ルート

乳児院で働くために、特別な資格が新たに必要になるわけではありません。保育士資格があれば応募でき、資格がない場合でも補助職からの道があります。
ただし、公立か民間かによって入職までのルートは大きく変わります。ここでは資格ごとの応募条件と、就職までの進み方を整理します。
保育士資格があれば応募できる
看護師の配置基準を保育士で満たせるため、多くの施設が保育士を募集しています。児童指導員任用資格や看護師資格を持つ方も対象です。
乳児保育の経験があると評価されやすい一方、新卒や未経験からの採用も行われています。
資格がない場合は保育補助などの道もある
調理補助や清掃、事務、保育補助であれば、資格がなくても応募できる求人があります。
資格取得支援制度を設けている施設もあり、補助職として現場を知ってから資格を取り、養育の中心を担うという進み方も可能です。
公立の乳児院は公務員試験が必要
運営主体は社会福祉法人などの民間法人が中心ですが、自治体が運営する公立施設もあります。
公立で正規職員として働く場合は、自治体の保育士採用試験(公務員試験)への合格が必要です。会計年度任用職員として募集されることもあります。
8. 乳児院で働くやりがいと大変さ・給与面の考え方

乳児院は、少人数の子どもとじっくり向き合える一方で、夜勤や医療的な配慮など負担のある場面もある職場です。
どちらか一方だけを見て決めると、入職後にギャップが生まれかねません。ここでは、やりがいと大変さの両面を並べたうえで、求人票で確認しておきたい給与・手当のポイントまで整理します。
乳児院で働くやりがい
- 少人数を担当するため、一人ひとりの発達にじっくり向き合える
- 寝返りや初めての言葉など、成長の瞬間を間近で見守れる
- 家庭復帰や里親委託という、子どもの人生の節目に立ち会える
- 看護師・心理職・ソーシャルワーカーと連携し、専門性を高められる
乳児院で働く大変さ
- 夜勤を含む交代制のため、生活リズムを整える工夫が必要
- 体調の変化や医療的ケアなど、責任の重い場面がある
- 子どもの背景を知ることで、気持ちが揺れる場面がある
- 担当した子どもとの別れ(退所)を経験する
気持ちの負担を一人で抱え込まないよう、ケース会議やスーパービジョンの体制が整っているかは、職場選びの重要なポイントです。
乳児院の仕事が向いている人
- 夜勤を含む生活リズムに無理なく順応できる
- 記録や申し送りを丁寧に続けられる
- 言葉にならないサインを観察し、想像する力がある
- 子どもの背景に心を寄せつつ、感情を抱え込みすぎない
- 他職種に相談しながらチームで動ける
給与・手当で確認したいポイント
給与水準は運営法人や地域、経験年数によって幅がありますが、共通するのは24時間体制の施設ならではの手当が加わる点です。求人票では次の項目を確認しましょう。
- 夜勤手当・宿直手当の金額と、月あたりの回数
- 処遇改善等加算の反映方法(基本給か手当か)
- 住宅手当や借り上げ社宅制度の有無
- 年間休日数と、夜勤明けの扱い
基本給の差が小さく見えても、夜勤回数や手当の設計によって手取りは変わります。月給の内訳まで確認しておくと、入職後のギャップを防ぎやすくなります。
9. 乳児院で働くと身につくスキルとキャリアパス

乳児院での経験は、その施設のなかだけで完結するものではありません。
低年齢児の発達と健康管理、他機関との連携といった経験は、施設内での役職や他分野への転職でも評価されやすい強みになります。
ここでは、乳児院で積み上がるスキルと、そこから広がるキャリアの選択肢を見ていきましょう。
乳児院で身につくスキル
乳児院では、0〜2歳児の発達と健康管理に関する知識が集中的に積み上がります。
医療的な配慮が必要な子どもや、虐待を経験した子どもへの関わりを通じて、観察力と記録の精度も磨かれます。
児童相談所や医療機関、里親との連携経験も、保育園ではなかなか得られない強みです。
乳児院から広がるキャリア
乳児院での経験は、次のステップの要件や強みにつながります。
経験を次のステップへ
- 家庭支援専門相談員:
省令上、乳児院で乳幼児の養育に5年以上従事した者が要件のひとつとされています - 里親支援専門相談員・個別対応職員:
施設内でのキャリアアップの道です - 児童発達支援・病児保育・産後ケア施設:
低年齢児のケア経験と健康管理の知識が活きます - 保育園の0〜2歳児クラスや主任:
手厚い配置での個別対応の経験が評価されます
乳児院は、勤務した年数がそのまま次のポジションの要件につながりやすい職場です。長期的にキャリアを積みたい方にとって、選択肢の広がる環境といえます。
よくある質問
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乳児院に預けるとお金はかかりますか?
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入所は児童相談所を通じた行政の措置で行われ、費用は公費(措置費)でまかなわれる仕組みです。
そのうえで、保護者の負担能力に応じて費用の一部を負担する扱いとなり、負担額は世帯の状況によって異なります。
実際にいくら負担するかは個別の判断となるため、お住まいの地域の児童相談所へ確認してください。
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子どもを預けたいときは、どこに相談すればよいですか?
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お住まいの地域の児童相談所や、市区町村の子ども家庭相談窓口が入口です。
乳児院自体も地域の育児相談やショートステイの窓口を持っているため、直接相談できる場合もあります。緊急性がある場合も含め、まずは公的な窓口へ連絡してください。
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乳児院では夜勤なしで働くことはできますか?
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乳児院は24時間体制のため、正規職員は交代制で夜勤を担当するのが一般的です。
ただし、パート・非常勤として日中の時間帯のみ勤務する募集が出ることもあり、勤務形態は施設や雇用区分によって異なります。
夜勤の有無や月あたりの回数は求人票と面接時に確認しておくと安心です。
まとめ|乳児院とは、子どもの育ちの土台を支える施設

乳児院は、家庭で暮らせない乳幼児を24時間体制で育て、保護者を支え、家庭復帰や里親委託につなぐ児童福祉施設です。
入所理由の背景には保護者の精神疾患や経済的困難があり、子どもの約半数に虐待の経験があります。だからこそ、特定の大人との安定した関係をつくる保育士の存在が、子どものその後の育ちを支えます。
夜勤があり責任も重い職場ですが、少人数の子どもとじっくり向き合える環境と、多職種で学べる専門性は保育園では得がたい魅力です。
転職を考える際は、勤務シフト、手当の内訳、職員のサポート体制の3点を確認しながら、自分に合う施設を探してみてください。